【々】
新しい環境にはなかなか馴染めない。
俺だけじゃない、みんな。
当たり前だ。
毎日が不安と緊張の連続なのだ。
友達できるかなあ。
お昼ご飯一人で食べるのとか、イヤだなあ。
授業で当てられたら(しかも解答が間違ってたりなんかしたら)こっ恥ずかしいなあ。
表向き平気そうな顔して、実はみんな考える事なんて一緒なんだ。
だから、4月は、そういう不安や緊張を毎日少しずつ少しずつ削っていって、
削る努力をして、終わっていく。
そして、削っている間はみんな必死なので、みんなどころか、時によっては自分さえ知らない間に、
過ぎ去っていく、俺の誕生日。
果たして今まで何回まともに祝ってもらえただろう。
もう慣れたけど。
大体にして、人の誕生日なんてある程度仲良くなってからしか聞いたりしないもんだから
親しくなってきた頃には大抵こう言われるのだ。
「なんだ、もう過ぎてんじゃん。」
勿論これは、俺の誕生日を教えた時の反応だ。
「うん、過ぎよったねえ。」
「なんだYoー、もっと早く言えよNa〜。」
「ははは、あん時言ってたら虎鉄、なんやコイツって思いよったやろうが。」
そりゃそうだけどさー、と言いながら口を尖らせて納得のいかない顔をするのは
虎鉄大河という男子生徒。
虎鉄は俺とは色々な面で正反対で、多分他人から見れば
どう考えたってお前ら仲良くなるような感じじゃないだろ!と突っ込みたくなるであろう、そういうタイプのやつだ。
「アー、でも惜しいよNa〜、丁度一ヶ月前だったんじゃねーKa。」
「・・・一ヶ月前って別に惜しくもないやろ。」
「惜しいの!」
何がそんなに悔しいのかまるで駄々っ子のように言う。
一ヶ月前など本当、全然惜しくも何とも無いが、今日が五月十二日で「丁度」一ヶ月前というのが
虎鉄にはなんとなく惜しい感じがするらしい。
見かけのキツさとは裏腹に、こういうアホくさいと言うか子供くさいところ、俺は結構気に入っている。
「じゃあ今度なんか奢るYo。」
「えっ?ええの?」
「ええんだYo〜。代わりにオレの誕生日に何か奢ってもらうZe。」
「あ、虎鉄は誕生日いつなん?」
十二月二日、猪里と違って遅せえだろー、と言いながらなぜか自慢げに笑うのが本当に子供くさい。
「はいはい、ええね、俺よりも8ヶ月も若くいられて。」
「いいだRo〜。でも子供の頃はムチャクチャ嫌だったんだZe。誕生日遅いの。」
「そうなん?」
「アア。ガキの頃って誕生日早いヤツ、羨ましかったYo、オレは。」
ふーん、よう分からんけど、そういうもんなん?と聞くと
「だって、周りのヤツらオレを置いてどんどん年上になってくんだZe。ホラ、ガキってそういうクダらねー事でも何か言ってくるだRo。」
まあ、虎鉄の話によると、
あとまだン歳になってないの虎鉄と誰々だけだなーとか、そういう事、たまに言われて
悔しがりーなこてつたいがくんは
「誕生日が遅せーのなんてオレのせいじゃねぇのに、悔しいじゃん。」
と思わずにはいられなかったらしい。
まあ、分からないでもないけど。
俺からすれば誕生日が遅いやつの方が羨ましいとずっと思っていたので、そういう考えは妙に新鮮だった。
虎鉄といると、こういう反対の部分とか、自分が見えてなかった部分とか、たまに見えて
こいつと一緒にいるのは、そういうのが楽しいからってのもあるかもしれない。
「でさ、何食いてえんDa?」
「そら、やっぱラーメンやろ!」
「言うと思ったZe。で、味はアレだRo。」
「「とんこつ!」」
ハハハ、やっぱなー、と言いながら虎鉄はまた笑う。
そんで、こいつと一緒にいるのは、
まるで昔からの仲であったかのように俺の事を分かってくれてるからってのも
あるかもしれない。
ちょっとの間、ちょっと親しくしてるからって何を思ってんだか俺は、と思ったけど
虎鉄がさっき、
まだまだ先の十二月二日に、俺が虎鉄の横にいる事がさも当然かのように言っていたのを思い出して
もしかしたら虎鉄も俺と同じように、一緒にいて楽しいとか思ってくれてんのかなー、と思った。
「あ、忘れてた。」
「何?」
「誕生日おめでとうございまし、た。」
「ははは、過去形かいね。」
十二月二日になったら、今度は
また俺の誕生日に何か奢ってもらうけんね
って俺が言ってやろうと思った。
2004.04/12