01: calling.





おれはきっと、料理人になれって神に言われて生まれてきたんだと思うね。


一体どれほどの選択肢があっただろう、おれの目の前には。

しかし気付けば見習の料理人として船に乗り、ジジイと出会いそいつに乗っかってまた料理。

仲間に入った海賊団でも毎日料理(料理人として勧誘されたのだから当たり前だが)




料理をするのが好きだ。

空っぽんなった皿の山を洗うのが好きだ。

美味いっつって食ってるやつの笑顔を見るのが、大好きだ。


人間、メシを食って美味いと思えなくなったら終いだよ。

そいつ、生きてるけど、生きてねえのと同じだよ。




おれは、みんなに生きてる事を実感してもらう為に料理してんじゃないかと、たまに思う。

みんながおれのメシを食う度に、生きてる事を実感するんだ。

そんで美味いモン食ったら、生きてて良かったって思うもんさ。


ああ、それってなぁ、なんて偉大な仕事なんだ!

そう思わないかい。



こう言っちゃなんだが、そこらの男にはそうそう簡単には真似のできねえ偉業だよ。

おれだから出来るんだ。



確かにこんだけの腕になるまで、苦労のひとつやふたつ、どころか千や二千はあったけどさ(何しろジジイの下で十年近くやってんだ)

そりゃ自分の腕を上げる為だしな。確かにジジイはムカついたけどさ。

受けて立つぜ、かかってきやがれって乗り越えたよ。

乗り越えにゃならねえ気がしたよ。




そう、これはおれの天職さ。










「どうしたのサンジくん。」


「え、何がだいナミさん。」


「だって、口元がお留守よ。珍しい。」






そう言いながら、おれの真似をして左手が煙草を吸う仕草をする。

ちなみに右手には、フォークとその先におれが作ったおやつのオレンジタルトの一部。





新しい島に着いて、ヤローどもは早々と探索へ行き

知識欲旺盛なロビンちゃんも新たな島で何かしらの情報を求めて船を降りて行った。

それがヤローどもが出払っちまった後で、私も降りるわ、と言い出したので

新しい島は危ないかもしれない、おれも一緒に、と思ったのだが

同時にナミさんは、私は溜まった海図を描きたいから船に残るわ、と言い

ナミさんを一人船に置いて行くのも躊躇われ、どうしようかと思っていたら

(ああ、憎むべきは二人の可愛さかおれのジェントルマン精神かさっさと先にいったヤローどもか)




私なら大丈夫よ、とまるでおれの心中を察したかのようにロビンちゃんが言ってくれたので


すまねえなあ、ロビンちゃん、なんかあったら呼んでくれよ、必ず飛んでくからさ、ホントだよ、


と謝りながら、泣く泣くロビンちゃんを船から見送ったのだった。




ああやっぱり、クソゴムやクソマリモたちが女の子を置き去りにしてさっさとどっか行っちまうのがいけねえんだよ。

この船にゃあ気の利く男がおれしかいねえんだから、女の子たちが可哀想すぎるぜまったく。




で。


今はこうしてナミさんと二人仲良く船でお留守番て訳だ。

無論ナミさんは海図を描く為に残ったのだから、ちゃんと海図を描いている。

おれはと言うと、もしかすると島に町があるようなら夕食はきっとそこで食うだろうと思い、夕食の支度は控えとく事にした。




そうしたらまあ、船に残ったはいいが、おれのやるべき仕事がねえんだなこれが。

キッチンの掃除はおれが日頃しょっちゅうやってるから片付いてるし

(あいつらの食べ終わった後をまんまほったらかしにしといたら、二日後にはすげえ事になりそうなんだよ)

皿洗いも勿論食い終わった後すぐにやっちまうし。

洗濯モンもこういう時に限って、無い。


敢えて言うなら、ナミさんを守るという使命だけが今のおれの仕事。




そしたら自然、ナミさんの手伝いを何かしたいと思う訳だけど

まあ、おれが手伝える事なんてなーんも無いわな。

海図を見る事は多少出来ても、描く事なんて出来る訳ねえ。




それでも、ちょっとくらいナミさんになんかしてあげたくて

ワンパターンながらも、ナミさんの好きなみかんを使ってオレンジタルトを作ったという次第。

結果、少なからず手を止めさせてしまう事になったのでしまったなあと思った。




「で、どうしたの。」

「あ、やー、さっき煙草切らしちまっただけなんだよ。」

「あら、それも珍しいわ。あ、島で買ってこなくていいの?」




ああ、愛しの姫君は一途な騎士になんて悲しいお言葉を投げかけるのか。



「あのですねー、そんなの聞くまでもないでしょう?」

「そうなの?」

「そうですよ。ナミさんと煙草。秤にかけるまでもないよ。」



そして姫君は、哀れな程に貴方に夢中な騎士に、まだまだ悲しいお言葉を放つのだ。



「え、サンジくん私の為にここに残ってるの。」



ああ、ジーザス。



「え、じゃあ、なんでおれが船に残ったと思ってたの。」

「や、なんかやる事あって残ったんだとばかり。ごめん。そっか、さすがはサンジくんよね。あいつらとは違うわ。」

「そうでしょそうでしょ。あー、なんかその点であいつらと比べられるのも癪だけどね。」

「フフ、ごめんごめん。」



そう言いながら笑う顔が、もう、昇天ギリギリレベルに可愛い上に(もしかしたらもう昇天してんのかも)

それが今はおれにのみ向けられているのかと思うと

もっともっとナミさんとこうやって二人で喋っていたい(し、あわよくばそれ以上なんとかならないか)と思ってしまうのだが

ナミさんには海図を描くという大役が残っているので、それが出来ないのが

とても、とても、とても、とても、とても、悔しい。





「そうね、じゃあ後でルフィたちが戻ってきたら買いに行くといいわ。」

「うん、そうだね。そうするよ。」




そして愛しの姫君は、オレンジタルトを一切れ口に入れると

落胆する騎士に、今度は嬉しい事をお言いつけ下さったのだ。



「その時は私も一緒に行くから、呼んでくれないかしら。」

「え・・・、そ、そりゃあ、勿論!喜んで!」




久しぶりの陸だから私も一回は降りたいもの、島の大まかな地形も知りたいし、と後でナミさんは付け足したが

理由はどうあれ、これは姫君から騎士へのご褒美なのだとおれは思っておく事にした。




「さーってと、それじゃあ出来るだけ早く仕上げないとね。」



ナミさんはそう言うと、右手に握る物体をフォークから再び羽ペンへと持ち替えた。

サラサラと動く羽とナミさんの顔をしばらく眺める。

こーんな小っちゃい顔と頭の、どこにこんだけ膨大な量の情報が詰まってんだろう。



「はー、すげえよなナミさん。なんでそんなの描けちまうんだ。天気とかもさ、ばっちり当たるし。」



邪魔しちゃいけないと思っていたが、ついつい本音がモレた。

すると、ナミさんはおもむろに顔をあげて言ったのだ。




「だって、これは私の天職だもん。」




ああ、そうか。



そらま、おれだって人からすれば、

あんたのどこにそんなにレシピが入ってんの、とか

その手でどーやってあんなに細かい盛り付けとかやってんの、

てなもんかもしれねえよな。




「サンジくんだってそうでしょ。」




まるで見透かされてるみたいなタイミングに、少し苦笑い。



「ん、そだね。」



うん、おれはきっと、料理人になれって神に言われて生まれてきたんだと思うよ。

だって、ナミさん、おれね、



「んっ、美味しかったわ。ごちそうさま。」



そんな風に幸せそうなナミさんの笑顔を見るのが、この広い広い海の中で、何より大好きなんだよ。

そりゃもう、まるでそれを生き甲斐に、明日への糧にでもしてるみたいに。

好きな人を幸せにしてあげられて、そんで、おれも幸せなんだ。




そう、だからこれは、おれの天職なんだよ。




ナミさんが食べ終わった後の皿を洗いながら、背中でそう語ってみたけれど

ナミさんは海図を描くのに夢中みたいだった。



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お題の「calling」の意味を「天職」と捕えて書いたらこんなん出ました・・・。
普通に「呼ぶ・呼んでいる」とかの方が簡単だったかもしんない。
なんか、全くもって何のひねりもないフツーの小説になったな。小学生低学年レベルか。
書き方とか、台詞回しとか、好きな作家さんの影響を受けすぎだと痛感致しました。反省。







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