「これだからフェミニストは嫌なのよ。」














おれ、生まれてこのかた

フェミニストである事を貶されたりはしなかったのだけど。



よりにもよって、大好きなナミさんにこの台詞を言われたときにゃあ

軽く凹んだね。


いや、本当は重く凹みたいんだけどさ、

冷たい扱いに慣れちまってるんだよね、この体と頭。



それにさ、別に悪い感触はなかったんだけどな。


いや、何の感触って、変な想像してくれんじゃねえぞ。

町を歩きながら話してただけだよ。

なんてえか、手応えってやつ?

雰囲気とかムードからすると、割といい感じだった(とおれは思った)のに

それが嫌だなんて否定されちまって。



でも、そんな一筋縄ではいかないところが

ナミさんらしくておれは大好きさ。










XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX






「ナミさん、こんなのどう?」




そう言ってサンジくんが服屋で見せてきた服は


「明らかにサンジくんが私に着て欲しいだけで選んだでしょ。」



男って、なんだってこう、明らかにセクシー路線とか

人によってはマニアックな服とか好き好んで選ぶのだろう。

私に似合う似合わないと言うよりも、お前の好みだろそれ、みたいな。



「え、んなことないよ。いやまあ、着て欲しいのは着て欲しいけど。」


「でも、私普段こういう服あんまり選ばないでしょ。」



クルーの中では割と私のことを分かっているかと思っていたけど

案外私の好みが分かってないのね、なんて思ったりして。



「だからだよ。

 ナミさんは自分でこういうの選ばないけど、こういうのもきっと似合うんだよ。」



だから着てみて、こういうのも似合うんだって知って欲しいんだ、って

彼は付け加えた。



「おあいにく様だけど、私スタイルいいから何でも似合うって、自分で分かってるのよ。」


「ははっ、そりゃそうか。

 でもさ、ナミさんも気づいてないナミさんの魅力を、おれは他にもいっぱい見つけたいんだよ。」



相変わらず口(と料理)だけは上手いもので、

一体どれだけの女と場数を踏んでこうなったのかしら?という考えが一瞬よぎっては

なんとなく自己嫌悪する。



「私、自分の魅力は熟知してるつもりだから、難しいと思うわよ。」


「オーケー、難易度が高いほど男は燃える生き物なのですよ、レディ。」



はいはい、とおざなりな返事をして店のドアを開け外に出る。

そろそろ船に戻る集合時間が迫っていたので、船に向かって歩き出す。



「ゾロのやつ、また迷ってなきゃいいわね。」

「ルフィもしょっちゅう集合時間に遅れるんだから、待ちくたびれるわ。」

「あ、そう言えば、今日の夕飯って何かしら?」



「・・・・・・・・・・・?」


あまりにも返事が無いので、後ろを振り向くと

そこに彼の姿は無かった。



バカの独り言みたいに喋ってたのかと思ったら

ちょっと恥ずかしくなった。



いつものように、てっきり後からついてきているだろうと思い込んで

確認もしていなかった訳で。



とりあえず、船に向かって進めばそのうち合流する?

それとも、店の前まで戻ってみる?



そう考えていると、



「んナミすわ〜〜ん!」



といつもの声が聞こえてきて、いつもの姿をこの目が捉えた。



「ごめんごめん、ちょっと見失っちまってたよ。」

「ふーん、珍しいこともあるのね。」

「ああ、不覚だなあ。」



そう言うと、歩くのを再開した。

余談ではあるが、彼は私が町で買ったもの全て

一人で両手いっぱい使って持ち運んでいる。

言わば、荷物持ちだ。



「そうそう、今日の夕飯ってもう決まってるの?」

「ああ、決めてるよ。今日もとびきり美味いから期待しててね。」

「いつも期待してるわよ。」

「嬉しいなあ、そう言って貰えると作り甲斐があるってもんさ。」



彼はこと料理の事に関すると、なんとも子供の様に笑顔を作る。

うっかり、可愛いじゃないの、なんて思ってしまったのは秘密だ。




両手が塞がっているにも関わらず、器用に咥えタバコで歩く彼は

更に器用な事に、タバコを咥えたままで話す事も出来る。



話の内容は、さっきの続きで私の魅力についてとか

聞いている方が恥ずかしくなるような事なので

適当に相槌を打ちながら聞き流し、建ち並ぶ店のショーウィンドウを眺めて歩く。






そこで、ふと気づいてしまったのだ。


ああ、出来るなら気づきたくなかった。







ガラスに映る彼と私の姿。




ガラス越しだからだろうか、客観的に見えたのだろう。

彼は私を見て話しかけながら、とてもゆったりと歩いているように見える。




そう、とてもゆったりと。




普段、彼が一人で歩いている時は

もっと早く歩いている気がする。



と言うよりは、一歩一歩の感覚が、なんか違うのだ。


私の一歩と彼の一歩は、距離的には同じだけど

彼の一歩は私と比べ、とてもゆったりしている。



つまり、私が知らずのうちに

彼に歩調を合わせられているのだ。



そう気づいた瞬間

悔しいような嬉しいような、なんとも言えない気持ちになった。




ああ、ちくしょう

この私が

してやられた




とでも言うのか。




考えてみれば、ルフィやゾロと一緒に歩く時は

やつらは先に行ってしまうので、こっちが追いかけてばかりだ。


サンジくんと居る時に、歩幅や歩調を意識していなかったって事はつまり、

いつも彼が私に合わせてくれていたからに他ならない。



本人が意識してやっているのか

無意識でそうなっているのかは知らないが

あからさまではない、こういった気遣いは

色んな意味で結構キく。





「これだからフェミニストは嫌なのよ。」



一体どれだけの女と場数を踏んでこうなったのかしら?という考えが

またよぎって、また自己嫌悪した。








**--------------------------------------------------------------------**


後半ちょっとナイーブなナミさん。
こいつ女慣れしてんな、って思わせる男は色んな意味でニクいっすね。
それが、さり気なければさり気ない程にね。



 



inserted by FC2 system